第5回 長春の古物店の話をしよう。

長春の古物店の話をしよう。
中国の古道具・骨董品・書画の事情をお知らせしたいと思う。私の住んでいる彦根は城下町だけあって、骨董品店が多い。母親・姉が明治時代の吹きガラスの器を良く買っていたし、中学生だった頃一緒に連れられて、店の商品を見るのも好きだった。

その頃、革のトランクとかカバンとかガラスの薬瓶とか柱時計とか母親にねだって買ってもらっていたものだ。骨董屋のおじさんから、いい目をしていると冗談だろうが褒められたこともある。

姉に京都の天神さん弘法さんの道具市にも連れて行ってもらっていたが、その時、有名になる前の松山猛もこの市で見かけたこともあった。長春の骨董品店街には2箇所行ったことがある。1箇所は長春駅の近くで、ビルの中にあるのだが、1階は生花市場のようである。2階3階が骨董品店街になっているが、主に掛け軸などの書とかが多いように思う。

骨董品店街と言っても、新品の書を売っているし、表装をして額に入れたりすることもしている。ここの特徴は古物も扱っているが、日本でいう表具屋さんが集まっているという感じであろうか。ここの骨董品店街には、私の欲しいものはあまりない。もう1箇所は長春の中でも繁華街にある。若者のショッピングゾーンのビルにあり、外から見ただけではここに骨董品店街があるとはとても思えない。

初めて連れられてきたときにも、何処に連れて行かれるんだろうと不安になったほどだ。
1階は中国流行の衣料品とかスポーツブランドのショップが軒を連ねる。
2階は季節によって趣は変わるが、防寒衣料品売り場がある。

羽毛のコートが1,600円くらいからあって、冬場の外気温がマイナス20度の長春では必需品だ。羽毛コートだけでなく、下着類も温かそうなものが並んでいる。長春の冬は5年くらい体験しているが、このマイナス20度の世界は強烈である。私は極度の寒がりだし、風邪を引きやすい虚弱体質なのに、何故この地を仕事の拠点としてしまったのかは、この寒さを知らなかっただけである。

3階はコンピュータ部品とかオーディオショップとか文具、中古カメラ、ミリタリー関係、フィギュア等東京のアメ横、名古屋の大須、大阪の日本橋というような感じである。

ここの中古カメラ店で、ハッセルブラッドの6×6中判カメラが出ていたが、値段を聞くのを諦めた。時代はデジタルだしフィルム中判カメラを持ってもとなぁー言う思いの中で、もし値段を聞いて、相場以下だったら自分が取る行動が怖かったのが大きな理由だ。

2眼レフ中国製の海鵬とかは、ノスタルジーとしての購買動機であるが、ハッセルブラッドというとちょっと前までは現役だったし、何時かはハッセルブラッドという、ちょっとカメラをかじった人間には見過ごすことが出来ないカメラだから。

文具店には万年筆が光っている。上海の英雄・金豪ブランドがお勧めだ。詰め替え用インクカートリッジというようなものは存在せず、スポイト式にインク瓶からインキを吸い取って使用するのである。この吸い上げ方式もいろいろあって楽しい。良くお土産に皆さんにお配りするのだが、反応は大変よろしい。「こんな高価なものを」と言われるが、僕らは万年筆というと入学のお祝いに貰うという印象が残っていて、特別なものということなんだと思う。万年筆の造りは良くて、見るからに高価なものである。でも、中国製なのである。カサも取らないし、中国のお土産にはお勧めだ。

4階が目指す骨董品街だ。中国のエスカレーターは殆ど日本の様にスムーズに上がったり下りたり出来ない。1階から2階に上がったとしよう。日本だったら上がった横に上に行くエスカレーターがあるが、中国では反対側に行って上に上がらなければいけない。嫌がおうにも店内を見なければ次の階に行かせてもらえなくなっている。

私は景徳鎮の壺だとか茶器、掛け軸などのいわゆる書画骨董品と呼ばれるものには興味がない。知識も持ち合わせてないし、偽物、本物を見極める眼力もない。私はどう見ても日本人だし、高いもの、偽物をふっかけられるのに決まっている。

そんな中で、私のお気に入りは毛沢東主席グッズである。中国プロバガンダと言うかソビエト連邦とのごっちゃになった感じが気に入っている。ポスターも微妙な色ズレが何とも言えないし、外国人観光客目当てに複製品も沢山出回っているが、このたぐいは印刷関係者として、店頭でルーペを引き出して網点をみて真贋を判断できるので安心できる。デザイン的にみても良いものがあるので、真贋云々より見ていて楽しいものを買ってしまうことも多い。

味のある琺瑯のボウルだとかコップもいい。真鍮製の毛沢東主席像などもいいと思う。この辺の商品は骨董と呼ばれるものではないし、そんなに高いものではないので、偽物をつかませれたとしても気にする必要は無いと思う。ブリキの玩具だとか日本ではノスタルジーを感じる商品が人気だ。中国でこのブリキの玩具は沢山製造していたと思うが、殆ど見かけない。

以前、ブリキの程度のいいジャガーEタイプとキャデラックを買ったことがあったが結構高かった。私の中国語は下手だが、こと値切ることに関しては上手だと思う。これは必要に迫られての事である。
たかだか、何百円のものを1個で駄目なら、2個ならどうだ?とか泣き落としとか、お店のやり手婆さんとか、気の弱いおじさんとかと交渉が楽しく、中国語がこの時ばかりは、なんかすらすらと出てくる。恥ずかしげもなく、身振り手振りも入る。万年筆は毎回行くと買っているが、そのたびに同じものが安くなっている。

毎回、これ以上は安くできない、これ以上安くしたら赤字だ、生活できないよ、と聞いているのに、行くたびに1本あたり5元(8円)は下がる。安く買って申し訳ないなと思っていても、何時も相手が上手である。こんなところにも中国ビジネスの奥深さと日本人が中国でビジネスをする難しさがわかる。

中国のビジネスは人間関係が大きな要素をしめる。中国ビジネスを知れば知るほどこの人間関係の複雑さに面食らうことが多い。この人間関係にお金が付きまとうので、更に複雑になる。「もっとドライにいこうよ」と思ってもそう簡単にいかないのが中国ビジネスなんだと思う。

ちょっと話は違うが、時間があると中国テレビドラマ「金婚」のDVDを見ている。日本の雑誌に紹介されていて、興味があったので1月に中国に行った時に購入した。1956年に結婚した主人公夫婦の2006年の金婚までの50年のドラマだ。 1年が一つのストーリーになっていて、50話のドラマだが、全部見終わっていない。

私は1953年生まれなので、ちょっと時期がずれるが中国の時代時代の風景を見ることが出来る。毛沢東主席の時代は壁に貼ってあるポスター、琺瑯のボールなど実際に出てくるので、骨董品店とダブらして見ていても楽しい。

このテレビドラマ「金婚」はゴールデンタイムに放映していたそうだが、この時間帯に放映するドラマとしてはちょっと違和感を感じている。保守的なものが多いように思っていたが、不倫とか性について夫婦間の問題が描写は無いのだが流れている。

こういう事を普通にゴールデンタイムに放映出来る中国も変わってきたのだと思う。中年とおぼしき中国人にテレビドラマ「金婚」を見てましたかと聞いても結構見ていて、話題のテレビドラマだったんだと思う。中国語がわからなくても、それなりに楽しめる。

このドラマを見ても感じるのだが、中国人の女性は強いなぁーと思う。こんな事を言うと、いろんなところからおしかりを受けそうだが、日本人との比較論をすれば、そう感じる。中国社会全体からすれば、強くなければ生きていけないからだと思うのだが。

2008年2月