第1回 吉林芸術学院動画学院の話をしよう。

吉林芸術学院動画学院と言うくらいだからこの学校は中国東北3省の一つである吉林省にある。日本人には馴染みの深い、かつての満州国の首都であった新京は現在、長春という名称だ。長春市は総人口が700万人と言われ、中心部は300万人の人口を有する、吉林省の省都である。

長春を見て、私の第一印象は何となく京都に似ているというものであった。満州鉄道、関東軍が建設した建物が随所に残り古い建物が残っている事と、街路樹が多くて街がしっとりとしている。吉林大学を筆頭に大学がたくさんあることなどが、京都に似ていると感じたのではないかと思っている。

中国のいろんな都市を訪れた経験があるが、この「しっとり感」の有る街はあまり知らない。中国の都市が新しい都市計画で「造られた街」というイメージがあるなかで、私にとって長春はお気に入りの街だ。
過去の歴史の是非は別として、長春にはロマンを感じる事が出来るし、自分のロマンを実現出来る街なのではないかと思っている。

吉林芸術学院動画学院って変な名前だと思いませんか?何かとってつけたような名前だ。長春には国立芸大の吉林芸術学院がある。音楽・絵画・デザイン・舞踏・伝統芸術等を教える総合芸術大学だ。生徒数も12,000人位在学しているのではないだろうか。

その国立芸大の名前を持った、私立芸術大学だ。最初良くわからなかった時に、わざわざ別の学校を創らなくても、学部を増やせば済むことではないかと思っていた。国立の吉林芸術学院が経営する私立の吉林芸術学院動画学院で大学が独立採算制度の中でより運営しやすい方法の学校だと思っていたが、そうではなかったようだ。

現在の吉林芸術学院動画学院鄭理事長が7年前に学校を設立するときに、少しでも知名度を上げるために吉林芸術学院の冠を付けたと言うことらしいのだ。北京大学がコンピュータ関連で方正という企業を経営しているように、国立大学と言えども独立採算企業経営という形で、私立大学を経営しているのかと思っていたのだが、違ったようだ。

国立の吉林芸術学院と私立の吉林芸術学院動画学院は殆ど別の大学のようだ。そんな新しい大学だが、私は2年ほど前の2005年からお付き合いをしているし、私立故に比較的自由にお付き合いが出来ると思っている。

  • Animation
  • Digital Media Art
  • Art&Design
  • Broadcasting-Video Journalism
  • Advertising
  • Humanities Teaching and Researching
  • Foreign Language Teaching and Researching
  • Physical Education

の学部があり、Digital Media Art Art&Design 学科の3D関係が日本の大学及び専門学校と比べるとレベルが高いのではないかと思っている。 Animationについては日本は世界のトップレベルにあるし、日本Animationを見ていると見劣りがする。ゲームのソフト開発もDigital Media Art Art&Designの二つの学科で教えているが、これも日本に追いつけ追い越せの情況ではないだろうか。

中国の芸術系の大学を見ていると3Dをやっている学生が多くて、層の厚さを感じる。中国国内にどれ程建築パースの需要があるのか良くわからないが、学生の卒業製作等を見ていると3D建築パースが多い。3D建築パース描ける人は、基本的にCADが使える。吉林動画学院でも最初にCADを教えてから3Dソフトを教えるようになっている。

以前、3Dソフトの3Ds Maxの授業を見学していたことがある。初級の授業で人の耳を形づくるのだが、先生はさすがに早く20分くらいで説明をしながら完成してしまうが、学生は半日経っても出来ない。後ろから学生が製作する画像を見ていたが、チェックのために耳の画像をグルグル回すので、見ていて酔ってしまって気持ち悪くなってしまったこともあった。製作している本人は真剣なので酔ったりすることはないと思うのだが。

3D建築パースが描けても3D動画まで出来る人材は中国といえども少ない。その点吉林芸術学院動画学院は中国全土の大学の中でも注目されている大学と言えよう。開学当時は近隣の学生だけだったものが、南部出身の学生も受験するようになり、中国全土で知名度は上がってきているようだ。

学生の殆どは、寮生活をしているが、1部屋4人が基本のようだ。寮は男子寮・女子寮に分かれている。学食もあり、結構美味しく食べられるが、量が多いので私は食べきれなくて残すことが多い。学食で男女仲良く食べている光景はほほえましい。個人主義の人達がプライバシーのない生活をしているのだが、それはそういうもので仕方のない事なんだという考え方があるのだろうか?

Digital Media Art Art&Designの授業の中にはグラフィックデザインの授業もある。ロゴマーク製作の授業を見学した事があるが、3D関係に比べると、わぁー凄いという作品には、あまりお目にかからない。筆文字を使ったり、伝統的な素材を使用した中国文化を訴える作品は日本では真似が出来ないと思うが、欧米風というかごく普通の日本で見ているグラフィックデザインという範疇では心ときめく物がない。これは生まれ育った環境、文化の違いがあるのだと思う。

私は50歳代前半だが、欧米文化をまがいなりにも見てきたし、世界各地も行く気になれば自由に行って見ることが出来たのだけれども、今の中国の大学生達は鎖国状態の中で、自国の文化中心の生活を送ってきているのだろうから、欧米文化のデザインを見る量が圧倒的に違うし、音楽だって同じ事が言えると思う。

アメリカ人が見た日本人のデザインがどの様に評価されているのか分からないが、中国人のデザインが日本人に評価されている尺度はかなりの差があると思う。まどろっこしい話をしているが、グラフィックデザインはまだまだなのである。

しかし、中国の小学生達が欧米の文化を自由に見聞きするようになって、それが当たり前の様にライフスタイルの中にとけ込んだときに、その子達が大学生の時代になったときに、もの凄いデザイン力として、層の厚みを持って巷に氾濫するのだと思う。なにせ今でもアートと呼ばれる芸術作品は凄い物が沢山あるのだから。

私は、中国で漢字も使うし、芸術作品の凄い物を見ていたからグラフィックデザインも出来ると思って、中国にデザイン会社を作ったが、見事に失敗した。やり続ける資金力が無かったのが一番の原因だと思うが、日本文化、日本語の問題は大きかった様な気がする。それと日本のデザイン代というか版下代が成熟化の影響で価格破壊がおき、中国に外注するメリットが無くなってしまったこともある。

未だに人件費の差はあるといえ、中国で制作するリスクは高いので、高度なグラフィックデザインは日本から外注しにくくなっていると思う。でも、あと5年か10年経てばこの情況も変わってくるかもしれない。日本もこのままの情況が続くとも思えないし、中国は今のままではないから。

そんな中で、中国の3D製作はグラフィックデザインと比べると中国ビジネスとしてやりやすいのかもしれないと思っている。特に3D動画は日本の広告代理店に聞いても何処に発注すれば良いのかわからないと言う話も聞くし、まだまだ一般的じゃない。しかし、より分かりやすい、より良いプレゼンテーションには必要不可欠なものだと思っている。ブロードバンド時代のこれからの商品である。突き詰めていけば、日本文化、日本語の問題はあるが、基本的には設計図にいかに忠実に再現するかが、問われて、質感等は個人の力量が大いに違うところである。

レンダリングと呼ばれる作業も以前ならスーパーコンピューターを使用しなくては出来なかった作品が、30秒ものでも、そこそこのPCで10日間も演算すれば出来上がるので、ハード面の向上も追い風かもしれない。

私の中国でグラフィックデザインをするという夢は終わったわけではない。只今休憩中である。それは、中国の人達のデザイン力が上がったときに再開すればよいと思っている。

それまでは、日本でも始まったばかりの3D動画で中国ビジネスに挑戦をしていきたいと思っている。吉林芸術学院動画学院のバックアップがあって出来ることだが、来年印刷学部設立の予定もあり、印刷は私の専門であるし、こちらの方で協力していきたいと思っている。

以前は選択科目の日本語コースの授業を飛び入りでしたり、印刷とデザインの関係について話をしているが、一応客員教授でもあるので、日本の印刷の優位性が中国の印刷の標準化になるように、頑張っていきたいと思っている。東京の日本プリンティングアカデミーのような学部が出来れば印刷人としての良い人材を供給できると思っている。

2007年10月